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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5543号 判決 1996年8月29日

反訴原告

畑野正樹

ほか一名

反訴被告

古垣内孝美

ほか一名

主文

一  反訴被告らは、反訴原告のそれぞれに対し、各自八六三万八四六〇円及びこれに対する平成五年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を反訴原告らの、その余を反訴被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告は、反訴原告のそれぞれに対し、各自三六一四万七三一二円及びこれに対する平成五年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、反訴被告古垣内宏(以下、単に「被告宏」という。)が、反訴被告古垣内孝美(以下、単に「被告孝美」という。)所有の自動車に畑野あゆみ(以下「あゆみ」という。)を同乗させて運転中、交通事故を起こしあゆみを死亡させたとして、あゆみの父母である反訴原告ら(以下、単に「原告ら」という。)が、被告宏に対しては民法七〇九条に基づき、被告孝美に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である(なお、本件は、反訴被告らの反訴原告らに対する当庁平成七年(ワ)第二七八号債務不存在確認請求事件の反訴として提起されたものであるが、右事件は訴の取下げにより終了した。)。

一  争いのない事実

1  被告宏は、平成五年一一月九日午後一一時四〇分ころ、普通乗用自動車(和泉五二ふ五六六四、以下「被告車両」という。)を、あゆみ(昭和四九年二月一六日生まれ、当時一九歳)を同乗させて、大阪市淀川区十三本町一丁目二三番一三号先道路を運転中、前方を注視し、かつ、適宜速度を調節しハンドル操作を的確に行い中央分離帯との衝突を避けるべき注意義務があつたのにこれを怠り、被告車両を中央分離帯に衝突させ更にコンクリート壁に衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  あゆみは、平成五年一一月一〇日、本件事故による出血性シヨツクにより死亡した。

3  原告らは、あゆみ死亡当時、あゆみの父母であつた。

4  被告孝美は、被告車両を所有し、自己のために運行の用に供していた。

5  原告らは、自動車損害賠償責任保険より三〇〇〇万円、被告孝美の加入する任意保険から搭乗者傷害保険金五〇〇万円の支払を受けた。

二  争点

被告らは、原告らの損害額を争うとともに、被告宏とあゆみとは同じ大学の学生であり、学園祭での体育会系クラブの打ち上げで一緒に飲酒した後の事故であるところ、あゆみは被告宏の飲酒運転による危険を承知のうえで被告車両に同乗したのであるから、その損害から二割を控除すべきであると主張する。これに対し、原告らは、あゆみは、被告宏により、その意に反して被告車両に連れ込まれたものであり、右減額は相当でないと反論する。

第三当裁判所の判断

一  本件事故により、あゆみ及び原告らは次のとおりの損害を被つたものと認められる。

1  逸失利益 三一二九万一二五一円(請求七二八三万三七四〇円)

あゆみは本件事故当時、一九歳で、乙第三号証によれば四天王寺国際仏教大学に在学中であつたことが認められるところ、本件事故に遭わなければ、大学を卒業する二二歳から六七歳に至るまで就労が可能であつたと認められる。そして、あゆみの逸失利益は、賃金センサス平成五年産業計・企業規模計・旧大・新大卒の・年齢二〇歳ないし二四歳の女子労働者の平均年収額三〇四万三六〇〇円を基礎として算定するのが相当であるところ、生活費として五割を控除し、更に右期間の年五分の中間利息を新ホフマン方式により控除して本件事故時の現価に引き直すと、その額は三一二九万一二五一円となる。

計算式 3,043,600×(1-0.5)×(24.126-3.564)=31,291,251(円未満切捨て)

2  慰藉料 一八〇〇万円(請求二五〇〇万円)

被告孝美の加入する任意保険から、原告らに搭乗者傷害保険金五〇〇万円が支払われたことは当事者間に争いがないところ、右保険金は交通事故の被害者の損害のてん補を目的とするものではないが、保険加入者の出捐を原因とするものであり、かつ、右保険金の支払があつたことにより被害者の精神的苦痛はある程度慰謝されるものといえるから、本件においても、原告らが右保険金の支払を受けた事実は、慰藉料の算定にあたつて考慮するのが相当である。

右事実のほかその他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、あゆみが本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するには一八〇〇万円が相当である。

3  治療費 二六万七九九〇円(請求どおり)

乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば、あゆみは本件事故による受傷のため医療法人春秋会西大阪病院において治療を受け、そのため、原告らは、二六万七九九〇円を支出したことが認められる。

4  葬儀費用 一一九万二八九四円(請求どおり)

乙第七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らはあゆみの葬儀を行い、そのために一一九万二八九四円を支出したことが認められる。

二  甲第三号証の二〇、二五、三六、三九ないし四一、五七及び証人松尾直子の証言、被告宏本人尋問の結果によれば、被告宏とあゆみは四天王寺国際仏教大学の学生で自動車部に属しており、本件事故当日、学園祭での体育会系クラブの打ち上げで一緒に飲酒した後、被告宏が、同じ自動車部の部員でありこの日一緒に飲酒した福岡ひとみ、松尾直子、伊吹清美とともにあゆみを被告車両に乗せて帰ることになり、あゆみは、被告宏が飲酒していることを知つたうえで被告車両に乗車し、本件事故に遭つたものであることが認められる。

これに対し、原告らは、あゆみは、被告宏により、その意に反して被告車両に連れ込まれたものであると主張し、証人松尾直子も、被告車両に乗車する前、被告宏は酒に酔つてまともではない状況であり、先に帰つてしまつた澤田みゆき、松下よしこに対して、次に会つたとき覚えておけよと言つていたほか、残つたあゆみらに対しても、お前らも帰つたらどうなるかわかつているやろなと言つており、被告宏の目つきや様子は恐怖感を与えるものであり、先に被告車両に乗車した福岡ひとみが被告宏に何かされるかわからないという不安もあつたなどと証言するほか、甲第三号証の二〇、二五、三六にもこれにそう記載がある。

しかし、一方で、証人松尾直子は、被告宏に被告車両に乗れと言われたのは、電車で帰るよりも車の方が早く帰れるからという趣旨であつたこと、被告宏に走るような形で追いかけまわされたり、顔や体を殴られたり蹴られたりすることはなかつたこと、当時女子は六人いたのに男は被告宏だけだつたので、少しでもおかしな挙動を取ればその場から離れることができたようにも思われるが、被告宏が同じクラブの人間だつたのでその場に一人にしておくのが可哀想だつた、女性全員で被告宏の運転を止めさせればよかつたと証言するほか、甲第三号証の三六によれば、福岡ひとみは、あゆみらと、走つて被告宏から逃げて帰ろうかという話もしたが、大丈夫かなという気持ちもあつて逃げはしなかつたこと、被告宏が運転が大丈夫かみてくれるか等としつこく言うので、誰とはなしにとりあえず乗つてみようということになり被告車両に乗車したもので、逃げようと思えば逃げられる状態であつたことも認められる。右によれば、被告宏があゆみに被告車両に乗車するよう強制したことはなく、かえつて、あゆみは、被告車両に乗車しないことは十分可能な状況であつたのに、積極的ではなかつたにせよ、むしろ自分の意思で被告車両に乗車したと認めるのが相当であり、右原告らの主張は採用できない。

そして、あゆみは、本件事故当時一九歳であり未成年とはいえ是非弁別の能力は十分にあつたと認められ、被告宏が飲酒していることを承知で被告車両に乗車したのであるから、損害の公平な分担という見地から、本件事故によつてあゆみ及びその両親である原告らが被つた全損害からその一割を控除するのが相当である。

三  結論

以上によれば、原告らの総損害五〇七五万二一三五円から一割を控除し、更に原告らが自動車損害賠償責任保険から受領した三〇〇〇万円を控除すると、残額は一五六七万六九二一円となる。このうち、あゆみの逸失利益及び慰藉料にかかる部分は原告らが相続分に従つて二分の一ずつ相続したものと認められ、また、弁論の全趣旨によれば、治療費及び葬儀費用は原告らが二分の一の割合で負担したものと認められる。そして、本件事案の性質及び認容額に照らすと、弁護士費用としては、一六〇万円が相当であり、弁論の全趣旨によれば、原告らはこれを二分の一の割合で負担したものと認められる。

よつて、原告らはそれぞれ、被告ら各自に対し八六三万八四六〇円の支払を求めることができる。

(裁判官 濱口浩)

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